「永遠に…」
ハリーポッターを一度でも最後まで見たならば、「あの人のあのシーンだ」と誰もが分かる。
それほどの名場面。
この言葉とパトローナスがデザインされたモレスキンだって出たくらい。(ちと高くて諦めたけど)
そこには「Always」と書いてある。
うんうん、Always、永遠だよねーーいいよねー
…?ん??
そう、お気づきの通りforeverじゃないのです。
で、Audibleで聞いてみました。
“After all this time?”
“Always.”
静かなシーン、長〜い間のあるシーンだと思っていたのですが、ここ、”Always.”が、即答なのです。ものすごい速さ。むしろ食い気味。
今さら何?くらい。
そうやって見ると、ここまでのシーンも思っていたものとちょっと違って見えてくる。
「永遠に」の一言は、スネイプの印象をガラリと変えるものだったはずで。
ずっと意地悪で嫌なやつで、人間なの?って思っていたスネイプが「心」を見せたんだ。
と思っていました。
もしかして、違うのか…??
そんなAudibleだから気づける「面白さ」をちょっと語ってみようと思います。
alwaysと永遠に
第7巻、最終巻「死の秘宝」に登場するこの1シーンは、スネイプの記憶をペンシーブを使って覗くハリーの視点で描かれます。
永遠に、で共有される深い悲しみと愛
件のシーンはこうでした。
スネイプはダンブルドアから、ハリーを待ち受ける運命を聞かされる。
驚くスネイプに、ダンブルドアがこう問いかけます。
「 なんと、セブルス、感動的なことを」ダンブルドアは真顔で言った。
「結局、あの子に情が移ったと言うのか?」
「彼に?」スネイプが叫んだ。
スネイプは呪文を唱え、守護霊を呼び出す。
その守護霊の姿は、牝鹿(めじか)だった。
リリーの守護霊と同じ、牝鹿。
スネイプに向き直ったダンブルドアの目に、涙が溢れていた。
「これほどの年月が、経ってもか?」
「永遠に(とわ)」スネイプが言った。
・・・・
・・・ほぅぅ…、なんと美しいシーンだ。
そう思ってきました。
スネイプの誓いのような静かな愛の言葉と、それを知って深く同情するダンブルドアの静かな胸の震え。
そんなちょっと重たくて神聖なシーン。
永遠に、の言葉の後に続く、静かな沈黙。
スネイプの愛に、ダンブルドアが寄り添う、そんなシーン。
…と信じて疑わなかったわけです。
オーディブルで聴くと‥
ではオーディブルだとどう聞こえるのか。
“After all this time?”
”Always.” And the scene shifted.
くらいのイメージ。
ダンブルドアは、かなり驚いた口調になっています。
それに対してスネイプは、もはや食い気味に、さらりと答える。
「今さら、何を」、くらいの軽い感じ。
それを感じた後で、ちょっと前のシーンに戻ってみると、なんだかパトローナスを出すシーンすらめんどくさそうに見えてくる。
何度言っても、自分の想像からしかものを考えないおじいさんに、言ってもわかんないから、「ほらこれ見たらわかる?」くらいの。
そして、ダンブルドアもまた、違って見えてきます。
オーディブルのダンブルドアは明らかに驚いています。びっくりしてる。
ハリーを守るという名目のために、スネイプのリリーへの想いにつけ込んで、利用してきたスネイプの心を、自分は全く理解できていなかったということに。
変わらない愛の形に。
スネイプの記憶の中でも、物語の他のシーンでも ダンブルドアは他の誰より常に一歩先にいるように描かれます。
いつも彼が優位です。
ですが、この場面だけは違う。
ダンブルドアが、分かりたいと思い続けてきたのに、わからないもの。
愛という言葉を口にしてきたダンブルドアより、ずっと強く愛そのものを生きていたスネイプ。
完全に立場が逆転します。
ダンブルドアは、人がどう動くか、世界がどう動くかを寸分違わず読んできました。自分の死後ですら。
ヴォルデモートも同じで、恐怖で人がどうなるか、弱さをどう突けば思い通りに動くのかを知っていた。
でも、人の思いや愛、勇気、そういう「美しいもの」が、強く強く動いた時、どんなことが起こるかは、理解していなかった。
そんなダンブルドアの前に、「あまりに当たり前すぎて、言葉にするのさえ面倒ですわ」みたいな軽さで、サラッと見せつけられた愛の姿。
それに、ただただ驚いた。
そんなシーンに見えてきて、なんだかいても立ってもいられなくなって、記事にしてしまったというわけです。笑
振り返ってみると、スネイプは全ての行動が一貫しています。
「消えてしまいたい」と思いながら、それでもリリーのために、と誓った日から、スネイプだけは変わらなかった。
リリーの子どもだから、とハリーに気持ちが移ることもなく、リリーのためだから守るけど、お前はポッターの子。だから嫌い、以上。
それでずーーっと一貫しています。清々しいくらい、自分の心に正直だったのかもしれません。
スネイプの心が見える場面は「永遠に」じゃなかった
「永遠に」の場面は、スネイプが見せた人間らしい感情で、温かい心だと思っていました。
でも、ここはスネイプにとって大したシーンじゃない。
それを裏付けるように、オーディブルでは、always の後に間がありません。
すぐに、And the scene changed.が来る。
え?え?もういっちゃうの?余韻は?おお??と、置いてけぼり感がすごいです。
そこだけリピート3回目くらいで、ようやく「ま、まぁ…そういうことも」とついていけたような気がするくらい。(全然Andが入ってこない)
私たちが見ているのはスネイプの記憶で、スネイプにとっってはごくごく当たり前のことだからこそ、さっさと次の場面に行っちゃう。
もしこれがダンブルドアの記憶だったら、alwaysの言葉の後に、ダンブルドアの表情の描写とか、なにかしら余韻みたいなものがあったかもしれないけれど。
スネイプにとっては当たり前で、あたりまえすぎて、はい次、って次の場面に行っちゃう。
そうなると、スネイプの感情が溢れたのは、「永遠に」のシーンではなく、「僕を、見てくれ」というあのシーンなのかもしれません。
もっと言うと、スネイプがハリーに渡した「この記憶」。
ハリーに渡された「記憶」には、「ハリーが知らなければならないこと」以外に、スネイプとリリーの若き日が混じっていました。そう「混じってた」。
なんだか自然に読み進めてしまっていたのですが、よく考えれば不思議ですよね。
リリーとの喧嘩や自分の過ちは、ハリーに渡す必要のない記憶のはずです。
でも、ハリーの手に渡った。
うっかり「渡してしまった」んじゃないかとすら思えてきます。
こと切れる瞬間に見た、あの緑色の瞳に、他の多くの人と同じようにスネイプもリリーを見ていた。
そして、ハリーに真実を渡す使命と同じくらい、強く、リリーとの日々を愛し、悔やんでいた。
それが混じって「渡ってしまった」。
そうだとすれば、いつも静かで、感情を隠し続けてきたスネイプが唯一見せた、見せてしまった自分の心だったのかもしれません。
許して欲しいでもない、わかって欲しいでもない。
ただ、強く強く心に何度も刻みつけてきた思い出だけを、彼は上手く扱えなかった。
誰よりも、心を静かに、ヴォルデモートに対してすら完璧に隠し通してきた彼が、唯一「揺れた」。
そうやって不思議に混ざった記憶がハリーに届いたことで、ハリーの息子は「セブルス」の名前を受け継ぐことになる。
許されることはなく、愛が届くこともなく、愛を受け取ることもなかったけれど、切れてしまった結び目が、もう一度結ばれたような優しさが広がります。
まとめ
よく知っているはずの場面、好きなシーンの中に必ず入りそうな場面が、これまでとは、ちょっと違って見える。
これって、ハリー・ポッターに触れたことがある人だからこその贅沢だと私は思います。
そして大人になって、もう一度物語の世界を旅したからこその贅沢だと。
しかもこれは、ただ「英語」だからじゃない。
原書で文字を追っているだけでは、私はこれを拾えませんでした。
“After all this time?”
“Always.”
And the scene shifted.
これだけじゃ今までの理解で読んじゃうので、やっぱり静かな愛のシーンな気がしてしまう。
オーディブルで聴くからこそ、そして聴き続けることで生まれる面白さだなと思います。
▶︎もう何年も繰り返し聞いているのに、不思議です
▶︎Audibleを聴いてみるなら、まずはここから
‥ダンブルドアの涙も、違った意味に見えてきました。それはまた次の記事で。



