スネイプは本当にハリーを愛していたのでしょうか。
私は、あまりに有名なあのシーンにそのヒントがあるように思います。
死の秘宝の中で、ハリーに渡された記憶の中の、ダンブルドアとスネイプのやりとり。
ダンブルドアに対して、スネイプがリリーへの変わらぬ愛を牝鹿の守護霊を呼び出すことで示すシーンです。
このシーンの最後は、日本語では永遠にという美しい言葉で終わります。
英語ではalways。
ですが、ヒントはここよりちょっと前。
-Have you frown to care for the boy ,after all?
-For him?
スネイプの「for him?」です。
ここ、英語版のオーディブルで聴くと、スネイプはめちゃくちゃ怒っているんです。
ほぼ「は??!!」みたいな。
長年の読み癖や意味づけがありますから、私自身まだちゃんとは受け入れられていません。
でも、このスネイプの怒りに思いを馳せると、彼がハリーを愛していたのか。
そこに新しい意味が見つかりそうな気がするのです。
愛していたと言い切るのは違うと思っています。
かといって「憎んでいた」もちがう。
英語版Audibleで聴こえてきた「for him?」の感情が、その理由を教えてくれました。
スネイプは怒っている?日本語とこれだけ違う「for him?」の温度感
日本語でのシーン。
「ハリーに情が移ったというのかね?」
「彼に?」
スネイプは杖を取り、「エクスペクトパトローナム」と叫ぶ。
それをみてダンブルドアは涙を流し「これほどの時が経ってもか」と問う。
スネイプが「永遠に」と応える。
きれいで、静かな場面です。
そう、とても静か、だと思っていました。
ですが、件のオーディブル。
-Have you grown to care for the boy?
– For him?
このスネイプの聞き返しの部分が、めちゃくちゃキレているんです。
For him????!!!!!くらい。
日本語だと、彼に…??くらいですよね。
でも英語だとめっっっちゃ怒っている。
なぜ?
なぜこんなに怒っているの?
この部分を語るAudibleのスティーブン・フライの声は、より強い苛立ちが込められているように聴こえます。
日本語で「彼に?」と、ダンブルドアの言葉を繰り返す時って、そんなに強い意味はありませんよね。
え?彼に?、とか、彼にですか??とか。
スネイプの場合だと、あの捻くれた冷たい感じを、私たちは刻み込まれていますから、ちょっと皮肉っぽくイヤミっぽく言ったとそて、「かれに…???(唇めくれあがる)」くらいです。
頑張ってここ。
特に意味のある言葉だとは捉えられません。
それが、英語だと「怒ってる」。
その後、エクスペクトパトローナム、と叫んだ。と日本語でもあります。
でもハリーポッターの中の呪文って、割と「叫んだ」と表現されることも多くて、結構自然。映画でも、呪文は基本叫ばれてます。
だから、「彼に?」で怒っているとは思えなかった。
それが英語版では明らかに怒っています。
もう、ここだけのために、最終巻のオーディブル買って欲しいくらい。
じゃあ彼は、何にそんなに怒ったのでしょうか。
スネイプは永遠にfor Lilyだった
スネイプが、ダンブルドアにブチギレた理由。
それは、「ハリーに情が移った」という言葉に対してだったのではないでしょうか。
英語で言うと「For him」。
でもスネイプはずっとFor Lilyで生きてきた。
呪いの子のスネイプの言葉にも現れています。
I couldn’t save Harry for Lily.
あくまでもスネイプにとっては、for Lilyで、save Harryの順番なんですよね。
リリーのためがあって、リリーが信じたものを守るために、結果としてハリーを守ることを選んだ。
だから、「For him」なんて言われちゃうと、これまでの人生ひっくり返っちゃうわけです。
ていうか、厳密にはダンブルドアがリリーのために、ハリーを救え。って言ったわけなので、「いや、おい」的な怒りもありそうですが。
スネイプはリリーのために、大嫌いなジェームズの子どもを守らなければならなくなった。
リリーのために行きたいけど、ジェームズへの恨みは絶対に消えない。
しかもハリーはジェームズによく似てると来ている。
さらにはヴォルデモートとダンブルドアという、闇と光の頂点のあいだを行き来しなけらばならない。
そんなとんでもない人生を支えたのが、間違いなく「For Lily」だった。
とにかくリリーのために。
まるで自分に言い聞かせるように。
贖罪と後悔と。
そして自分自身への怒りと憎しみを閉じ込めるように、その全部を「For Lily」で包んできた。
だから、ハリーを守っていた、とハリーのために守っていた、では全然違うわけです。
ほんのちょっとだけど。
全然違う。
ダンブルドアの何気ない言葉の使いかたが、まるで自分の人生そのものを汚すような、そんな響きを感じてスネイプは怒りをあらわにしたように思えてなりません。
スネイプの異常さというか、執念や妄執にも近い。
スネイプそのもので、スネイプの生きてきた時間そのもので。
でもそれを見て「美しい」と思ってしまったのは、ダンブルドアだけではないはずです。
結局スネイプは、ハリーのことを愛していたのか
で、ここで最初の疑問に立ち返ってみましょう。
しかし、本編だけではわからない。
なので呪いの子まで広げてみましょう、
「呪いの子」のもう1つの世界では、スネイプは高潔な戦士そのもの。
捻くれやはねっかえりがなくて、素直です。笑
死を前にして、語る言葉はこうです。
One Person.All it takes is one person.
I couldn’t save Harry For Lily.
やっぱりどこまでも「たった一人、リリーのため」に彼は生きた。
だけど‥
and it’s possible -that along the way I started believing in it mayself.
リリーのために、リリーの信じたもののために、と生きてきた長く重たい時間のなかで、自分自身も同じ信念をもつようになってしまったのかもしれない。
そして最後の言葉は、こうです。
「アルバス・セブルスにー私の名前がついていることを、私が誇らしく思うと。」
スネイプが、ハリーのことをどう思っていたのかはわかりません。
でも、少なくとも彼は、ハリーを守り抜いたことを、ハリーの未来を守り抜いたことを誇りに思っていたのではないでしょうか。
だけど、それを「ハリーへの愛」と呼んでしまうのは、あまりにもこっちの勝手な気がしてしまう。
「あなたって素直じゃないわね、本当に。」
もし彼にそう言える人がいるとしたら、それもまた、リリーだけなのではないでしょうか。
オーディブルで「死の秘宝」を聴いたら感動ポイントが変わった
作者はどんな言葉で、ハリー・ポッターの物語を綴ったのか。
それが知りたい一心で手に取った原書でした。
そして原書がなかなか先に進まなくて、助けを求めたのがオーディブルでした。
日本語だと、文字だけの方が大いにその意味を語ることがあります。
それは、その言葉がどういう文脈で使われるのか、どういう意味を持っているのかをよく知っているというのが大きい。
でも、母語ではない英語だとそういうニュアンスとか体に染みついた何かを、文字だけを追いかけて掴むのは難しいんだなと感じます。
それがオーディブルで朗読になると、英語の文法みたいなややこしいことはわからなくても、そこに込められた意味や世界の広がりが頭を通り越してちゃんと心に響く。
もちろん、「え??なんで怒ってんの?」って違う意味での疑問は浮かんできてしまいますが。笑
目で英語を追いかけるリズムの良さと、声に出した時の歌い出すような音色。
どちらもあって、一層ハリー・ポッターの世界は深まります。
もしかすると、頭でっかちな大人にこそ、わからない英語をそのまま聞いて心で受け止める、ということの方が、特別な体験になるかもしれません。
この「For him?」を一度聞いてしまうと、そこから続く「Always」まで違って聴こえてきます。


